今回は、「試験対策や試験のテクニックで解けてしまうことを封じるための出題者側の工夫に対して、さらなる試験対策が必要になってしまう」という、なんだかややこしい話をしていきます。
想定としては、難しいまたは高得点が必要な入試問題、難しいまたは高得点が必要な資格試験です。
大学入試・高校入試・中学入試、さらにはいろいろな資格試験の一部で、この傾向が当てはまるかもしれません。当教室で扱うものとしては、例えば英語の試験ではTOEICでこの傾向があるかもしれません。英語検定・数学検定・漢字検定などは、「とにかく一定水準の知識スキルを試す」という一本で、このような傾向は薄いように思います。
では、見ていきます。
試験対策を封じるために試験の出題方法を工夫することが、逆にさらなる試験対策を必要とする状況を、長くわかりやすく説明します。
試験対策
1. 試験対策の一般的な意味
試験対策とは、試験で良い点数を取るために、特定の方法やテクニックを駆使して準備することです。たとえば、過去の試験問題を解いたり、出題されやすい問題を重点的に勉強したりすることがよく行われます。これは、試験問題がパターン化されていたり、同じ形式の問題が繰り返し出題されることが多いため、受験者が効率的に高得点を狙えるような方法です。
2. 試験作成者の意図と対策
試験作成者は、受験者が「試験対策」に頼ることによって、試験本来の目的である知識や能力の正しい評価ができなくなると感じることがあります。つまり、受験者が単に対策のために覚えた知識で試験を乗り切るのではなく、実際に理解し、応用力や思考力を身につけているかを評価したいという意図があります。そこで、試験作成者は、過去の問題と異なる形式を取り入れたり、予想が難しい新しい問題を出すことで、単純な「対策」を封じようとします。
3. 出題の工夫による新たな問題形式
例えば、過去に同じ形式の選択問題ばかりが出されていた場合、学生はその形式に慣れ、出題のパターンに沿った特定の方法で準備をします。しかし、試験作成者がその状況を改善するために、全く新しいタイプの問題を導入するとします。たとえば、記述式の問題を増やしたり、選択肢が複数の正解を含むような複雑な問題を出題したりします。こうすることで受験者が、もっと本格的な理解や応用力が必要になるという考え方です。
4. しかし、結果的に対策がさらに必要になる
ところが、ここで起こるのは逆説的な現象です。試験作成者がどれだけ出題方法を工夫しても、学生やその指導者はその新しい形式に対応するための新たな「試験対策」を考え出します。たとえば、新しい問題形式に対応するために、模擬試験や専門的な予想問題集が作られ、それに基づいて学生たちはさらに準備を強化します。
この結果、試験がより難しくなると、それに比例して学生はさらに多くの対策を必要と感じ、試験のための準備に一層の時間と労力をかけることになります。新しい形式に適応するためのテクニックや勉強法が開発され、それを学ぶために特別なコースが設けられたり、新しい「攻略法」が必要になるのです。
5. 試験対策が強化される原因
この現象が起こる理由の一つは、試験の形式が複雑化すればするほど、学生にとっては「何をどう準備すれば良いか」を見極めることが難しくなるからです。つまり、試験が難しくなればなるほど、どの部分に力を入れるべきかを理解するために、専門家の助けや、より細かい分析が必要になります。これが、試験対策をさらに強化する動機となります。
記述式などの場合
記述式問題や論文試験においても、試験対策を封じるための工夫がかえってさらなる試験対策を必要とする場合があります。
1. 記述式問題や論文試験の特性
記述式問題や論文試験では、単純に選択肢から正解を選ぶのではなく、与えられた問いに対して自分の言葉で答えたり、特定のテーマについて論じることが求められます。これにより、試験作成者は受験者の知識や思考力、表現力をより深く評価できると考えます。特に論文試験では、論理的な構成やアイデアの展開が重視され、出題の範囲が広いため、受験者が事前に具体的な対策を立てにくいように設計されています。
2. 記述式・論文試験の対策方法
しかし、記述式や論文試験においても、学生は高得点を狙うために事前に対策を立てます。例えば、試験のテーマが予測できる場合、あらかじめよく出題されそうな論点やテーマについて情報を整理し、それに基づいて論理的な構成を考える練習をします。また、出題されそうな問題に対して、自分なりの回答パターンや論文の書き方を準備しておくこともあります。
このように、受験者は試験で良い点数を取るために、特定のテーマに関する知識を覚えるだけでなく、どのように効果的に表現するか、どういう構成で論文を書けば高評価が得られるかという「テクニック」も学びます。これが、記述式問題や論文試験に対する精密な「試験対策」となります。
3. 試験作成者の出題工夫
一方、試験作成者は、こうした試験対策が行き過ぎることを懸念します。特に記述式や論文試験では、受験者が対策に頼りすぎて、単に暗記した内容をそのまま試験で再現するような場合、真の思考力や表現力が評価されにくくなります。これを防ぐために、試験作成者は出題の工夫を行います。
たとえば、以下のような方法で試験を工夫します:
- 予測が難しいテーマを出題する:あまり出題されていない論点や、新しいテーマを取り上げることで、学生が事前に準備した内容をそのまま書けないようにする。
- 質問の角度を変える:一般的なテーマに対しても、異なる観点からの質問をすることで、単純な暗記や定型的な回答が通用しないようにする。
- 制限時間内で深い思考を求める:時間が限られている中で、より深い議論や分析を要求することで、簡単に準備しておいたものをそのまま再現するのが難しくなるようにする。
こうした工夫によって、学生が対策に頼ることなく、その場での思考力や応用力を試されることを目指しています。
4. 逆説的な結果:
さらなる対策が必要になる
しかし、ここで起こるのは逆説的な結果です。試験作成者がどれだけ出題を工夫しても、高得点を目指す学生は新しい工夫に対応するためのさらに精密な「試験対策」を行うようになります。
例えば、試験に出題されるテーマが予測しにくくなった場合、学生はより多くの論点について事前に整理し、準備する必要があります。単に一つか二つのテーマに絞るのではなく、幅広いトピックに対して論じられるように準備を強化しなければなりません。また、質問の角度が変わることに備えて、異なる観点からの議論ができるように、複数の視点で物事を捉える訓練も必要になります。
さらに、制限時間内で深い思考を求められる場合、受験者は時間配分や短時間で要点をまとめる練習も行うようになります。こうして、試験の難易度が上がるにつれて、学生はその難しさに対応するために対策を一層強化する必要が生じます。
5. 高度な対策方法の具体例
高得点を目指す受験者は、こうした出題の工夫に対応するために、さまざまな新しい対策を行います。具体的には、以下のようなものです:
- 論点の幅広い整理:出題範囲が広がり、予測が難しくなるため、さまざまな論点について情報を整理し、それぞれのテーマについての自分の考えをまとめておく。
- 書き方や表現方法の練習:どのテーマが出ても適切な論文が書けるよう、論文の構成や表現方法の練習を行う。具体的には、序論・本論・結論の三部構成で一貫した主張を展開できるようにする。
- 多様な視点の訓練:異なる観点から質問されることに備えて、同じテーマについても複数の視点や立場から論じられるように訓練する。
- 時間内でのアウトプットの練習:制限時間内で的確に論点をまとめるため、短時間で論文を書き上げる練習や、要点を絞って効率的に書く技術を身につける。
これらの対策は、単に知識を覚えるだけでなく、より高度な思考力や応用力、表現力を身につけるためのトレーニングを含んでいます。しかし、これらの対策には膨大な時間と労力が必要であり、試験が難しくなるほど、学生が対策にかけるリソースも増えていきます。
6. 試験対策の「無限ループ」
こうした記述式問題や論文試験に対する対策の強化は、試験作成者がどれだけ出題方法を工夫しても、それに応じてさらに高度な試験対策が行われるという「無限ループ」を生み出します。試験が難しくなればなるほど、受験者はその難易度に対応するためにますます多くの時間と努力を費やさなければなりません。
たとえば、専門の指導者は、新たな形式の問題に対応した講座や教材を作り、受験者はそれを利用してさらなる対策を行います。記述式や論文試験の対策には、書き方の技術や構成のコツ、過去に出題された問題の分析など、非常に多くの要素が関わりますが、それらを専門的に学ぶことで学生は対応力を高めていきます。
傾向と対策はどこにでも
今回は、「試験」という観点から「傾向と対策の高度化・無限ループ」について見ていきましたが、実は他のことでも、似たような現象が起きているかもしれません。
なんだか非常にややこしい話になってしまいましたが、気になったのでまとめてみました。
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